むし歯は何処まで削ればいいのか⑥
むし歯は何処まで削ればいいのか⑥
では、何処まで象牙質は自己治癒力を保つことができるのだろうか。
それにはやはり象牙質・歯髄複合体を知ることが重要で
それは臨床的には組織下、ブラインドでの出来事であるので
マイクロスコープでさえも見ることはできない。
つまり
歯科医師が
頭の中で多くの情報を掛け合わせて
想像することが必要になる。
1次象牙質と2次象牙質は歯が正常な状態で形成される。
咬耗や感染などの侵襲、刺激があると
修復象牙質(第3象牙質・炎症性象牙質ともいう)が形成されるが
それは象牙芽細胞が形成する。
炎症性象牙質には象牙細管がごくわずかしか存在しない。
そしてその走行も不規則である。
まるで細菌の進行を迷路で遅らせるかのようだ。
う蝕に対する歯髄の応答で形成された
炎症性象牙質(第3象牙質・修復象牙質ともいう)と
感染歯髄部での象牙芽細胞の減少は
永久的に改善されない。
象牙芽細胞は他の細胞と異なり分裂、分化、あるいは再生したりしない、最終細胞である。
炎症性の反応で象牙芽細胞が破壊されてしてしまえばそれまでだ。
つまりう蝕という不可逆的な変化の中で
最も重要な担い手は細菌ではなく象牙芽細胞だろう。
たとえ炎症性の反応で象牙芽細胞が減少したとしても活性があれば
軟化象牙質を再石灰化することも
修復象牙質を形成することもできるので
むし歯の進行停止や歯髄保護を期待できると思われる。
逆に
象牙芽細胞がなくなれば自己治癒力は無くなるので
徹底的な感染象牙質の除去に切り替える必要があると思われる。
年齢も重要なファクターで
加齢変化で歯髄の血管は減りコラーゲン繊維が増える。
つまり血流が減少するので炎症に対する反応力が低下する。
歯髄の細胞が減少する。そしてそれは象牙芽細胞も同じである。
大きく深在性のむし歯で歯髄までの距離が0.75mmであれば
または以前に形成された修復象牙質に細菌が侵入している場合
症状がなくても不可逆的な歯髄炎が起こっているとも言われる。(1969,Keyes)
しかしGPSの存在しなかった昔のトンネル工事でもそうだが
壁の向こう側がどうなっているのかはわからない。
神経まであと2mmなのか1.0mmなのか0.5mmなのか。
その場合は感染部分を徹底的に取り除き
戦略的に露髄させて
マイクロスコープの拡大明視野下で歯髄の健康を確認したほうがいいのかもしれない。
深いむし歯の歯髄の状態を臨床的に判断するには
歯髄とその血流を確認するしかないからである。
抜髄するのか歯髄温存するのか。
歯髄温存でも部分的なう蝕除去か完全なう蝕除去で行くのか。
その意思決定のために
問診と歯髄テストによる診断。
そして患者ごとのプライオリティを探る
コミュニケーションが歯科医師には必要になる。
深いむし歯の場合はそこまで考えて治療介入していかなければならないのだ。
医療は変化する。
10年前の正義が悪になることなどしょっちゅうである。
人は変わらない。
人が人である限り原理原則はあるはずである。
マイクロデンティストはより良いむし歯治療を探し続ける。