日本の根管治療の現状と課題
平成22年社会保険歯科診療データですが、歯髄炎(Pul)と根尖性歯周炎(Per)に対する歯内治療の比率を見ると件数、日数、処置回数で約1.5倍となっています。
このPerの中には再根管治療症例が含まれていると思われます。
しかし初回根管治療の成功率は本来94%もあるはずなのになぜこのような数値になるのでしょうか?
再根管治療理由ですが 2015オギソ 、ブンナイらは症例選択や審査診断の不備、治療技術の未熟さなどが原因であり、歯科医師側の問題として捉えざるを得ないとしています。
観血的再治療も含め、再根管治療を回避するためには適正かつ確実な初回根管治療を実施することにつきます。実際の臨床でこれだけ再根管治療症例が多いという実態を真摯に受け止め、国民の健康を守り育む我々歯科医師は根管治療を開始するにあたって基本的知識と術式を確実に実行し、自身の知識と技量を向上させるための研鑽を継続するべきである、と締めくくっています。
東京医科歯科大 須田先生
「我が国における歯内療法の現状と課題」
序文より抜粋
新しい機器・材料に精通することは、歯内療法を志す者にとって必要ある。しかし、同時に我々歯科医師は、歯内療法の基盤となる事項を忘れてはならない、ややもすれば、我々は容易に万能薬やスーパーテクニックを求めがちであるが、まず歯内療法の基本的事項を尊守すべきである。たとえば、無菌的処置原則を守らない根管拡大・形成は単に感染経路を拡大しているに過ぎないと言っても過言ではない。
2011須田の論文ですが2005年9月~2006年12月まで東京医科歯科大学むし歯外来に受診された患者さんの過去に根管治療をしている歯をレントゲン検査したデータです。50~74%の根管治療歯に病変を認めています。つまり日本従来の根管治療の成功率は26~50%ということになります。日本の歯科医師の99%が保険医ですから、これが日本式保険歯科治療の結果と言えるのではないでしょうか。
国際的にみて10分の1、20分の1の治療費であればこれだけの成績をあげていれば十分なのでしょうか。
私もこのような論文に出会うまではラバーダムを装着せずに根管治療を行なっていた一般歯科医師の一人でした。
しかし、このような現実を垣間見た時に患者さんのため、日本の将来の歯科医療のためにも、その瞬間から根管治療はラバーダムとマイクロスコープを使った治療以外は行わないと決めました。
下のグラフはJEA: 日本歯内療法学会2003・文献10より改変した日本でのラバーダム利用状況です。
根管治療の専門学会であるJEA(日本歯内療法学会)の会員でさえ、25%しかラバーダムを使っていません。
一般歯科医師においては5.4%しかラバーダムを使用していませんが、それが一般診療であり、日本の保険診療の現実です。
Ogiso 2015のレポートにおいても根管治療の半数以上が抜髄治療のやり直しである再根管治療であることを示しています。